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機長日記

買ったものとか、情報系評論/オーディオドラマ制作サークル超電磁弾痕のこととか

美味しい料理が美味しく描かれる妙味。『青の祓魔師 ―劇場版―』

 料理を美味しそうに表現することは難しい。『青の祓魔師 ―劇場版―』は、その困難に真正面から向かい合い、打ち勝った作品だ。

 本作は、2011年にテレビアニメ化もされた加藤和恵による同名の漫画が原作。テレビアニメ版の後日譚がオリジナルストーリーで描かれる。

 11年に一度行われる正十字祭。祓魔師(エクソシスト)たちは、町を守る結界が弱まる正十字祭の期間中に活気づく悪魔たちの討伐に追われていた。主人公・奥村燐は、任務中に古ぼけたほこらを破壊してしまい、封印されていた愛くるしい姿の悪魔を開放してしまう。開放してしまった悪魔を監視する任務を受けた燐は、その悪魔を「うさ麻呂」と名付け、共に暮らし始める。

 なぜ、料理を美味しそうに表現することは難しいのか。それは、「味」を直接伝えることが出来ないからだ。

 伝えることが難しい料理の美味しさを伝える手段として「リアクション」や「セリフ」などでアプローチする方法がある。例えば『ミスター味っ子』では、料理人が料理の腕を競い合うバラエティ番組『料理の鉄人』をほうふつとさせる料理対決が描かれることが多い。審査員が料理を口にした瞬間「うーまーいーぞー!」と声を張り上げ、走ったり、空を飛んだりしながら美味しさを語る(どちらかといえば、暴れるに近い!)。本当に走ったり、空を飛んだりしている訳ではなく、美味しい料理を食べた時の喜びをそのまま表現しているのだ。

 また『美味しんぼ』では、悩みを抱えた人を助ける手段として料理が用いられるエピソードが数多く存在する。料理のウンチクや料理そのものが悩みの解決策となり、ドラマの感動と美味しい料理を食べたときの感動、写実的に描かれた料理の美しい姿が快い気分をぴったりと縫合する。

 どちらもドラマと料理の美味しさが巧みに結び付けられた傑作だ。

 しかし、物語のクライマックスで料理の美味しさを描いたミスター味っ子』と『美味しんぼ』とは違い、本作で料理が描かれるのは物語の序盤。料理を魅力的に描くためにどのようにアプローチしたのだろうか。

 本作で描かれる料理は、半熟タマゴを作るために熱々のフライパンにバターを引くところから料理の工程をカット割りや編集の雰囲気で乗り切らずに丁寧に描いていく。タマゴが徐々にふわふわの半熟タマゴになる姿や、その半熟タマゴを待つ具だくさんチキンライス、チキンライスの上で割った半熟タマゴがとろとろ流れだす光景、調理過程や完成した料理の美味しさを絵そのもの魅力で描いている。その美味しそうに描かれた料理は、うさ麻呂の喜びを観客に共有させることに成功している。

 もし、この料理が美味しそうに見えないのにも関わらず、うさ麻呂が美味しそうに食べていたらどうだろう。今まで人を警戒していたうさ麻呂が料理を切っ掛けに心を開いたことも嘘のように見えてしまう。作品世界の説得力そのものが落ちてしまうのだ。

 美味しいものが美味しそうに描く。絵そのもの魅力や表現力の高さが本作の魅力だ。

 本作は、同様の見どころを数多く持つ。どこか幻想的な正十字祭の装飾に包まれた町や山車、亡くなった父の形見である絵本の温かみ、そのどれもが説得力を持って描かれている。絵そのもの魅力に満ち溢れた本作は、「原作やテレビシリーズを知らないから」で見逃すにはもったいない傑作だ。

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